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こうしてキーボードに手を置いた途端に、何を書くべきか分からなくなってしまうのはどうしてだろう。あるメッセージを形作っていたはずの思考の断片が散り散りになって、海に投げ込まれたコンクリートのように深い場所に沈んでいく。物を書くということは、思考の深部に沈んでしまったそれらをもう一度取り出して、元の形につなぎ合わせる試みといえるかもしれない。

 

一昨日Yに言われたことを頭の中で何回も反芻した。電話を切った後、全身の力が虚脱していた。おまけに朝まで一睡もできなかった。「今の君は浅はかで未熟で幼稚で何も成し遂げることなんかできやしない」Yの言葉はそう告げていた。僕はその言葉に激しく動揺した。

 

この一年間僕は人と関わらなかった。もともと人との接点は極端に少なかったけれど、寂しさを感じるときは触れ合いを求めるために何かしらのアクションを起こしていた。それは出会い系サイトであり、ナンパであり、ほんの少しアウトローな飲み屋だった。僕はそれらの場所で起きた出会いを総じて欺瞞的なものであると結論づけた。そして自分自身の奥深いところに真実があり、その場所に辿り着かなければならないと思った。孤独な生涯を歩んだ芸術家に心酔し、僕は彼らと同じように特別な才能を宿しているのだと確信した。自分の外側の世界は全て嘘に塗りたくられていて、僕以外の人間は皆凡庸で、僕だけが美しい存在だった。