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唯一明らかなことは、僕はもっとタフにならなければならないということだ。結局のところ精神的な病はその人間自身の弱さに起因する。自分自身が直面している現実を咀嚼し嚥下するだけの力が足りないのだ。 人は皆幸せになるために生きていて、僕にも当然幸せ…

4-2

寂しさの捌け口を求めて街をさまようナンパ男に、思慮の浅い田舎者の少女が引っかかったというだけの話なのに、どうして文章を媒介させるだけで意味ありげなストーリーが浮かび上がるのだろう。出来事を切り取った瞬間にそこに何かしらの意味づけがなされる…

4-1

2年前の夏、渋谷のセンター街で三重から一人で旅行に来ていた女の子をナンパした。欺瞞の中に紛れ込んだ真実という切り口で過去を振り返ったときに彼女のことを思い出したので、書いてみようと思う。 垢抜けていない小柄な女の子だった。旅行者とわかる紙袋…

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僕の数年間の苦しみの原因は自分自身と世界の不完全さを許容することができなかったことにある。もちろんそれだって一つの暫定解にすぎないのだけれど。こうした注釈を挟んでしまうこと自体に何か芝居がかったものを感じる。美しい文章を表面的に真似しよう…

2-1

僕の両親は平凡な人間だった。誰かに自分の両親の人間性を説明しようとしても、それ以外の言葉が思い浮かばない。彼らが何を考えて何を感じて生きてきたのか僕は知らない。それを推察させるような手がかりは親としての彼らの姿からは得ることができない。 僕…

1-2

その過程で僕の精神は限りなく荒廃した。僕はたった一人で世界に立ち向かっていた。僕だけが美しいものを見ている。僕にはそれを表現する使命がある。それができない人生に何の価値があるだろうか。その思いの強さとは反比例するように、思考の明晰さは失わ…

1-1

こうしてキーボードに手を置いた途端に、何を書くべきか分からなくなってしまうのはどうしてだろう。あるメッセージを形作っていたはずの思考の断片が散り散りになって、海に投げ込まれたコンクリートのように深い場所に沈んでいく。物を書くということは、…