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寂しさの捌け口を求めて街をさまようナンパ男に、思慮の浅い田舎者の少女が引っかかったというだけの話なのに、どうして文章を媒介させるだけで意味ありげなストーリーが浮かび上がるのだろう。出来事を切り取った瞬間にそこに何かしらの意味づけがなされることは必然ではあるけれど、恋愛については殊更であるように思う。

 

僕たちは家に辿り着いた。お互いの服はびしょ濡れだった。彼女にシャワーを貸して、僕が普段着ているTシャツを渡した。彼女の服は浴室乾燥機で乾かしておいた。あれ、僕はいつシャワーを浴びたんだっけ。順番が曖昧だけれど、とにかく僕は彼女がシャワーを浴びているときに冷蔵庫に入っている桃を切った。そして僕と彼女はソファーに横並びになって桃を食べた。静かな時間だった。彼女と何を話したのか覚えていない。セックスはしたけれどそれも印象に残っていない。ただ二人で桃を食べたあの時間には確からしい価値があった。彼女は幸せそうだった。それがはっきりと感じられた。くだらないありふれた陳腐な出会いの中の、ほんの一瞬の輝きだった。

 

彼女とは三週間後にもう一度だけ会った。渋谷のスタバの前で再会したとき、彼女の印象は変わっていた。口には真っ赤な口紅が引かれ、髪の毛先は綺麗にカールしていた。最初会った時と比べて随分と垢抜けた印象だった。お金に余裕がある様子ではなかったのに、こんなにすぐに東京に来れることが不思議だった。話を聞くと、彼女は交通費を捻出するために風俗で働き始めていた。彼女はあっけらかんとしていたし、僕自身も罪悪感のようなものは感じていなかった。そういう事実を冷静に認識しただけだった。部屋に泊めた彼女を駅まで見送った後、ラインをブロックした。